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22. 初めてのホームランと初勝利

春休みに入ると、春季大会が始まった。今年は何としても、優勝決定戦まで行きたかった。

一試合目、僕は三打数二安打二打点。
僕は生まれて初めて、公式戦でホームランを打ったんだ。

市民球場のフェンスを越えて、レフトスタンドの芝生席にボールが入った時は、信じられない気持ちだった。

ホームベースからレフトポールまでは九十メートルあるから、僕は九十メートル以上飛ばしたことになる。

相手チームのピッチャーは、
緑山みどりやまタイガース」の山内やまうち君。
速球投手で、去年の鬼塚君ほどじゃないけど、真也君くらい球が速かった。
相手は打線も良いし強敵だった。
うちのエースの聖司君と投げ合いになった。

六回裏二死ツーアウト一塁、カウント、ワンエンドスリーから、僕は真ん中高めのストレートをフルスイングしたんだ。

打った瞬間、手応てごたえがあった。
打球がグングン伸びて行って、最初は、

[フェンスに当たるかなあ]

って思ったんだけど、そのままレフトスタンドの芝生席にボールが飛び込んだから驚いた。

一塁ベース付近で、走る速度をゆるめて、ダイヤモンドを一周しんだけど、僕はつい興奮して、走る速度が速くなっちゃったんだ。

二塁ベースを回った後、チラッと三塁側スタンドを見上げると、耀と母さんが僕に手を振ってた。僕はうなずいて、小さくガッポーズしたんだ。

三塁ベースを回ったところで、前を走ってた直君を追い越しそうになった。

「翔太君、速過ぎ、速過ぎ!」

って、下級生の三塁コーチが声をかけてくれたんだ。直君は振り返ると、僕が真後まうしろにいたから驚いたみたいだった。

「翔太、俺を抜くつもりか? アウトになっちゃうぞ」

って、直君は笑いながら言ってた。

ホームインしてベンチに戻ると、高野監督と緒方コーチを先頭に、チームのみんながベンチ前に並んで迎えてくれた。

僕はみんなとハイタッチしたんだ。
ハイタッチした後、みんなが僕のヘルメットやお尻や背中を、強く叩くから痛かったけど、僕は最高に嬉しかった。

[ホームランって、こんな嬉しい気持ちになるんだ]

って、僕は初めて知ったんだ。

その試合は、僕のツーランホームランが決勝点になって二対〇で勝利した。


◇◇


昼休み。

僕達が市民球場のいつもの木陰こかげで弁当を食べてたら、耀達がいつものように差し入れをしてくれたんだ。

耀は桜ちゃんと美優ちゃんを連れて来てた。
母さんは遠慮えんりょしたのか、ずっとスタンドに居るみたいだった。 

「翔太、さっきのホームラン凄かったね! 私、嬉しかった。母さんも凄く喜んでたよ。はい、これ、私のお祖母ばあちゃんが作った煮物にものよ。こっちは、私達が三人で作ったクッキー、これ食べて次の試合も頑張ってね」

って、耀が差し入れを渡してくれたんだ。

「ありがとう、耀のお祖母ちゃんによろしく言っといてね、次の試合も絶対勝つよ」

って、僕は答えたんだ。

桜ちゃんと美優ちゃんは、それぞれ聖司君と直君と談笑だんしょうしてた。
聖司君は完封かんぷう勝利をげたし、直君はライト前ヒットを打ったし、二人とも活躍したんで話がはずんでた。

耀のお祖母ちゃんが作ってくれたフキとタケノコの煮物は、味がみてて凄く美味おいしかった。

それから、耀達の手作りクッキーもサクサクしてビックリするほど美味しかった。
ハート形や、丸や四角や、星形とか、いろんな形をしてた。紅茶の香りがするものや、オレンジの香りがするもの、ナッツ入りのものとか、色々あった。

両方ともたくさん作って来てくれたんで、チームの仲間達と一緒に食べた。

「何だ、このお菓子! ちょううんめー」

って、みんな驚いてた。


◇◇


二試合目は僕が先発、打線が奮起ふんきしてくれて、四対〇で「港北こうほくオリオンズ」に勝利。

僕は公式戦初先発で初完封勝利を挙げたんだ。

監督は試合前、僕を先発させるか木村君を先発させるかで悩んでた。

だけど、木村君は翌日のAブロック決勝戦まで温存おんぞんさせることにしたんだ。
木村君は体が大きくて野球センス抜群なんだ。四年生の頃からたまに先発してたし、僕より投手経験が全然上なんだ。

僕は公式戦初先発だったから、凄く緊張してたけど、キャッチャーの浩一君が上手くリードしてくれた。僕は浩一君が構えたミット目がけて無心むしんで投げた。

サードの守備に入った聖司君も、試合中たびたび僕に声をかけてくれた。
聖司君の声を聞くと僕はなぜか安心するんだ。聖司君はメガネはかけてないけど、貴史君に似てるからかもしれない。

浩一君もこう言って、僕を落ち着かせてくれたんだ。

「翔太、お前の豪速球は去年の鬼塚君並みだ。そう簡単には打たれない。コントロールにだけ気をつけて、俺の構えたところに思いっ切り投げろ」

浩一君は勉強も出来るし、頭が良いんだ。
野球のこともくわしいし、チームのみんなから、聖司君と同じくらい信頼されてるんだ。

僕は五回を超えたあたりで、少し疲れて球速も落ちてきたけど、それほど息切れはしてなかった。僕はオフの後も、毎朝の走り込みは続けてたんだ。

[たくさん走り込んでおいて本当に良かった]

って、僕は思った。

僕は五回まで、パーフェクトピッチング。
でも六回裏、ツーアウトから、相手のピンチヒッターにレフト前ヒットを打たれて、初めてランナーを出すと、盗塁を許してしまった。

僕はセットポジションが苦手にがてなんだ。
ランナーを牽制けんせいしながらクイックモーションで投げるのって、本当にむずかしい。

浩一君が駆け寄って来て、

「翔太、二死ツーアウトだし、四点リードしてるから、ランナーはあまり気にすんな。バッター勝負でいこう」

って、言ってくれた。

それで、僕はバッターに全力を集中し、ノーストライクツーボールから、相手の九番打者を三振に仕留めたんだ。
モーションが大きくなり過ぎて、三盗さんとうは許しちゃったけどね。

七回裏、僕がマウンドに上がると、聖司君が近づいて来て、

「翔太、センターの方を見てみな、空が青くて綺麗だろう」

って、言うんだ。

聖司君と一緒に振り返って見ると、本当に空が綺麗だった。

球場の緑の芝生の向こうに、バックスクリーンがあって、上空には雲一つない青空が広がってたんだ。

父さんの顔も頭に浮かんで来るし、心が張り詰めてた僕は、何だか気持ちがスーッと落ち着いてきた。

浩一君も笑いながら近づいて来て、

「翔太、最終回だから頑張ろうな」

って言って、センターの方を見ると、

「みんな、まっていくぞー!」

って、大声で叫んだんだ。
チームのみんなが一斉いっせいに、

「オーッ!」

って、こたえた。

内野のみんなは、グラブをこぶしたたいてニコニコ笑ってた。
外野のみんなは、僕達に向かってうれしそうに手を振ってくれた。僕は何だか、とても幸せな気持ちになったんだ。

「翔太、打たれても俺達が守るから落ち着いて投げろ!」

って、聖司君が言ってくれた。

「翔太、俺のミット目がけて、ドーンと来い! あんまり力むなよ! これまで通り投げるんだ」

って、浩一君が言ってくれた。

二人は、僕のお尻をポンと叩いて、守備位置に戻って行ったんだ。

「プレイボール!」

って、主審がコールした。

僕は一度深呼吸して大きく振りかぶると、浩一君のミットを狙って、渾身こんしんのストレートを投げ込んだ。相手の一番バッターが空振りし、浩一君のミットが、

「パン!」

って、音を立てた。

浩一君は目をつぶって頷いたまま、しばらくミットを動かさなかった。
僕が良いたまほうると、浩一君はいつもそうして無言むごんめてくれるんだ。

僕の球速は元に戻ったみたいだった。

[いや、今日、一番力のあるストレートだったかもしれない]

って、僕は思ったんだ。

五回、六回は疲れてたけど、七回は体力が回復かいふくして体が軽くなったような感じだった。

僕はその後、三者連続三振をうばって、公式戦初勝利を挙げたんだ。だつ三振は全部で十三。

[父さん、やったよ! 僕、父さんと同じピッチャーで、初めて勝ったよ!]

って、僕は心の中で父さんに報告したんだ。

打撃の方は、三打数一安打一打点。
四回裏にレフト線への二塁打を打って、何とか勝利に貢献こうけんできたけど、前の試合でホームランを打ったせいか、体に力が入るようになってた。の二打席はキャッチャーフライと空振り三振。

[バッテイングって、難しい]

って、僕は思ったんだ。

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